旅館業の玄関帳場とは【ICTによる代替設備について】

旅館業における人手不足の状況やICT技術の進展等を踏まえ、「旅館業における衛生等管理要領」が一部改正され、令和7年4月1日より適用されることとなりました。今回は玄関帳場に代替するICT設備とはどのようなものかや改正における変更点についてお伝えしていきますので、これから民泊運営をされる方はぜひ参考にしていただければと思います。

「玄関帳場」とはあまりなじみがない言葉ですが、わかりやすく言えばホテルや旅館の「フロント」のことです。多くの宿泊施設では玄関を入ってすぐにあるのでイメージしやすいと思います。主にチェックインやチェックアウトなどの手続きをすることができます。
そしてこの玄関帳場の設置基準については旅館業法施行規則によって定められています。

第四条の三 旅館業法施行令(昭和三十二年政令第百五十二号。以下「令」という。)第一条第一項第二号の基準は、次の各号のいずれにも該当することとする。
一 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。
二 宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること。

厳密に言うと玄関帳場の設置に関しては営業区分上の「旅館・ホテル」にのみ定められています。「簡易宿所」には特に定めがありません、設置が望ましいとされており自治体によっては条例で「旅館・ホテル」と同等の基準を求められます。

旅館業の営業許可を取得して民泊運営を考えた場合、この玄関帳場の設置基準をクリアするには、ホテルの様に施設内にスタッフを常駐させておいてチェックインやチェックアウトなどの対応をしなくてはいけません。しかし、宿泊者の安全や利便性の確保のため、①緊急時の対応、②宿泊者の本人確認や出入りの確認、③鍵の適切な受け渡し、ができる設備を設けることで玄関帳場に代替することが可能になります。

①緊急時の対応
宿泊中のトラブルや災害時などの宿泊客の緊急を要する状況に対し、その求めに応じておおむね10分以内に施設に駆けつける体制が必要

②宿泊者の本人確認や出入りの確認
宿泊者名簿の正確な記載を確保するための措置として本人確認が必要で、宿泊者の顔や旅券が画像により鮮明に確認できること
また、宿泊者の出入り状況をビデオカメラ等で常時鮮明な画像で確認すること

③鍵の適切な受け渡し
宿泊者が客室へ入室する前に本人確認を行った上で鍵を渡すこと

上記の玄関帳場に代替する設備をICT機器で行うことができます。例えば、テレビ電話による遠隔での本人確認、タブレット端末による自動チェックイン、チェックインシステムを利用した宿泊者名簿の保管、ビデオカメラによる宿泊者の出入りの確認、スマートキーによる鍵の受け渡しなどです。また、玄関帳場を設けない場合は管理事務所が必要で、施設からの連絡やビデオカメラの映像を確認できるようにしなくてはいけません。

出典:厚生労働省

今回の改正では人手不足の状況やICTの進展に伴い、従来通りの方法に加えてより簡易的な方法の選択も可能になりました。改正内容は下記のとおりです。

【本人確認】
・従来
ビデオ通話等によって直接通話をし本人確認と外国籍の宿泊者は旅券の確認も行う(面接が必要)

・改正後
事前に宿泊者情報を登録しておき、本人が自動チェックイン機器(タブレット端末など)でその情報を確認・照合を行い、その本人確認の状況をビデオカメラ等で宿泊者の顔が判別できる角度で録画しておく(面接が不要)

【出入りの確認】
・従来
ビデオカメラ等により、出入りの状況の確認を常時鮮明な画像により実施

・改正後
自動チェックイン機器で本人確認した後に交付される鍵(スマートキーやキーボックスの暗証番号)がなければ宿泊者専用区域に出入りできない構造にして、出入りの状況を宿泊者の顔が判別できる角度で録画しておく

今回の改正で本人確認の際での面接は不要となり、チェックインの手続きがとても簡単になったように思います。また、出入りの確認の録画についても「常時」という言葉がなくなったので、ビデオカメラの動作検知による録画機能のみでも要件を満たす可能性が出てきました。

令和7年4月1日より玄関帳場要件の改正がありましたが、実際の運用については自治体の条例で規制があり、その条例が改正されていなければ従来通りの方法のみになります。今回の改正が適用できるかどうかは自治体次第になりそうです。自治体の条例による玄関帳場の規制について簡単に紹介します。

〇玄関帳場(フロント)の要件
・玄関帳場が必要 or 不要
・必要な場合には施設外帳場の設置を認めるかどうか

〇スタッフの常駐
・施設内にスタッフの常駐が必要 or 不要
・不要の場合でも10分以内に駆けつけれるかなど

〇駆付けの要件
・施設内にスタッフの常駐が不要な場合は10分以内に駆付けが必要で、駆付け方法を徒歩にかぎるか自転車や自動車も認められるかなど

〇鍵の受け渡し
・直接対面にて渡す必要があるかどうか
・キーボックスの使用は認められるかなど

上記の要件は一例に過ぎませんが旅館業の要件は自治体によりかなり違うことが多く、厳しいエリアもあれば緩めのエリアもあります。もちろん緩いエリアの方が要件をクリアし易くはなりますが、その分だけ施設数も多くなり競合が増えるかもしれません。また、法令や条例等の改正もありますので、最新の情報を把握するため必ず運営予定の自治体の窓口(保健所など)に確認してください。