旅館業と住宅宿泊事業のどちらで民泊運営するべきか

民泊を運営するには旅館業の許可や住宅宿泊事業の届出をする必要があり、当事務所にも「どちらの方が良いか?」という内容の相談も見受けられますが、これに関しては一概には答えられないというのが本音です。ただし、物件の立地上どちらでも取得可能ということであれば旅館業の許可取得の方がメリットは多いと思います。今回は両者(旅館業と住宅宿泊事業)とも申請できる場合について解説していきたいと思います。

営業日数の制限がない

旅館業の最大のメリットとしては、営業日数の制限がないということです。住宅宿泊事業では年間の営業日数が最大で180日と定められている上、地域によってはさらに日数の制限があります。今後もし民泊市場が飽和状態となって全体的に価格が下がる状況になった場合、通年で営業できる旅館業の施設は多少価格を下げれるかもしれませんが、住宅宿泊事業の施設は価格を下げにくく集客が難しくなるかもしれません。

管理業者へ委託する必要がない

住宅宿泊事業(家主不在型)の場合は、管理業者へ管理業務を委託する必要があります。基本的には全ての管理業務を委託し、一部業務については再委託という形で自分自身で行うこともできますが、少なからず委託料は発生します。また、管理業者によってはオーナーへの再委託を認めないこともあるなど、管理業者の選定には注意が必要です。この点、旅館業の場合だと管理業者への委託義務はないので自分で行うこともできますし、駆付けや清掃など自分で出来ない部分は知り合いなどに頼んだり、協力者を募ったりも可能です。

定期報告しなくていい

旅館業の場合は必要ありませんが、住宅宿泊事業では2か月ごとに宿泊日数、宿泊者、延べ宿泊人数、宿泊者の国籍を報告する必要があります。データを抽出すれば集計は可能ですが、報告するのを忘れてしまう可能性もあるので注意が必要です。

消防法上の基準に変わりはない

旅館業に比べ住宅宿泊事業の方が申請手続きが容易なイメージがあるかもしれません。確かに一般的には住宅宿泊事業の方が申請から標識の受領までは早く、より短期間でオープン(宿泊受付の開始)することが可能ですが、消防法の基準は同じで必要な消防設備に変わりはないのでどちらでも申請可能なら旅館業で申請した方がいいと思います。

住宅の要件がない

住宅宿泊事業の届出を行う場合、対象となる「住宅」について要件が決められており、下記の要件を満たす住宅である必要があります。

①現に人の生活の本拠として使用されている家屋
②入居者の募集が行われている家屋
③随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋

旅館業についてはこのような要件はないので、対象の物件自体の幅は広いかもしれません。

国内のOTAにも掲載が可能

民泊運営にはAirbnbやBooking.comなどのOTA(予約サイ)による集客が必須ですが、旅館業の場合は海外のものだけでなく国内のOTAにも掲載が可能なので、日本人利用者が多いエリアでは住宅宿泊事業に比べて旅館業の方が集客しやいと言えます。

基本的には旅館業の方がメリットが多いですが、下記の様なケースであれば住宅宿泊事業での民泊運営でもいいかもしれません。

郊外の立地の場合

郊外の物件でそもそも年間180日以上の稼働が見込めない場合は、旅館業を取る必要性は低いです。

高単価で設定する場合

1泊あたりの宿泊料金を高く設定し低い稼働で運営していくケースでも、年間180日以上の稼働が見込めなければ住宅宿泊事業でも問題ないと思います。

200㎡以上の物件で運営する場合

延べ床面積が200㎡以上の住宅物件を民泊施設にする場合は、用途変更による確認申請が必要になってきます。確認申請する場合は建築士などに依頼し、多くの費用もかかり開業までの日数も長くなってしまいますが、住宅宿泊事業であれば用途変更することなく住宅のままでいいので、確認申請をする必要なく開業できます。

このように住宅宿泊事業の届出による民泊運営でもいいケースもあると思います。仮に思った以上に稼働し、180日を超えそうになった場合は後から旅館業の許可を取得し、住宅宿泊事業から旅館業へ切り替えることも可能です。