特区民泊の制度について【旅館業法や民泊新法との違いや概要】

特区民泊は大阪府や大阪市、東京都大田区などの一定地域で実施されている制度で、正式な名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」といいます。これは国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例で、特区民泊の認定を受けることで旅館業法上の営業許可を取得することなく、宿泊事業を営むことが可能になります。平成28年1月に全国で初めて東京都大田区がこの制度の取組みを開始しました。

特区民泊の概要

以前は宿泊期間が1ヶ月未満の場合は旅館業法が適用され、旅館業法に基づく許可申請や様々な義務が求められていましたが、特区民泊の認定を受けることで、この旅館業法の適用が除外されて観光やビジネスの宿泊ニーズに対応した新たな宿泊施設を提供することが可能になりました。




特区民泊での宿泊事業を営むにはまず、該当の地域が国家戦略特別区域として定められている必要があり、「国家戦略特別区域において、滞在に適した施設を賃貸借契約に基づき一定期間以上使用させ、滞在に必要な役務を提供する事業として政令で定める要件に該当するもの」であれば、その事業について都道府県知事の特定認定を受けることにより、旅館業法の規定は適用されません。(根拠法令 国家戦略特別区域法第13条)



特区民泊でも旅館業や住宅宿泊事業と同様に、宿泊者に寝具を提供して施設を利用させる「宿泊」という行為が行われますが、2者との違いは施設と宿泊者の間で賃貸借契約が締結される点です。これに関して、宅建業法の規制対象である「貸借の代理又は媒介」に当たり、宅建業法が適用されると思われるかもしれませんが、平成26年12月に国土交通省より「提供される施設に生活の本拠を有しないと考えられる滞在者を対象として、寝具等を備えた施設を紹介・あっせんする事業については、宅地建物取引業には該当しない」との通知があります。これにより、特区民泊の事業には宅建業法は適用されずに滞在者への重要事項説明が不要であることが明確化されています。


国家戦略特別区域とは

“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度です。平成25年度に関連する法律が制定され、平成26年5月に最初の区域が指定されました。
国家戦略特区は、対象区域の選定に国が主体的に関わり、スピード感を持って岩盤規制を突破する仕組になっています。また、各区域ごとに置かれる国家戦略特別区域会議に、国・地方自治体・民間事業者が対等な立場で参画し、密接な連携のもとに区域計画を作成するという特徴があります。

国家戦略特別区域であれば特区民泊ができるのではなくて、国家戦略特別区域の中で特区民泊に関する条例が定められている自治体のみ特区民泊ができますので注意が必要です。

出典:内閣府 国家戦略特区

旅館業法や住宅宿泊事業法との比較

以下の表は特区民泊と、旅館業や住宅宿泊事業との違いを比較したものです。

旅館業法(簡易宿所)住宅宿泊事業法特区民泊
許認可等許可届出認定
営業日数の制限なし年間180日以内2泊3日以上年間の営業日数の制限なし)
客室面積原則33㎡ 以上
(宿泊者の数を 10 人未満とする場合は、3.3㎡×人数でも可
3.3㎡×人数原則25㎡以上
管理委託の必要性なし規定あり
(居室6以上か家主不在型の場合)
規定なし
住専地域での営業不可可能
(条例により制限されている場合あり)
可能
(認定を行う自治体ごとに、制限している場合あり)

特区民泊には営業日数の最低宿泊数が2泊3日以上と定められており、1泊のみの宿泊は不可となってますが、住宅宿泊事業のように年間の営業日数の上限がなく年間を通じてフルに稼働できます。また、地域の条例によって異なりますが、旅館業では営業できない住居専用地域での運営も可能となっています。

補足

国家戦略特別区域法第13条は、特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)を外国人旅客の滞在に適した「施設」を一定期間以上使用させる事業と規定しており、事業で用いる「施設」が外国人旅客の滞在に適したものであることを求めているものの、施設の「利用者」については何ら規定を設けておりません。宿泊客を外国人のみに制限しておらず、日本人でも宿泊可能です。

特区民泊の状況

旅館業や住宅宿泊事業での宿泊施設の運営は可能ですが、特区民泊は一部のエリアに限定されています。令和5年2月末の時点で可能なのは8つのエリアとなっています。以下の表は特区民泊が可能な地域とその実績となっています。

エリア施設居室事業者
東京都大田区10330988
千葉市111
新潟市222
北九州市222
大阪府203620
大阪市3,2099,6271,887
八尾市121
寝屋川市222
参考資料: 内閣府地方創生推進事務局 国家戦略特区民泊 実績

特区民泊の認定を受けての宿泊事業ですが、上記の表を見て分かるように一部の地域に集中しています。旅館業や住宅宿泊事業もその自治体独自の条例が適用されているケースも多いですが、特区民泊に関してはその地域の特性が強く出ています。特区民泊の認定による宿泊事業を行う上では、該当の自治体の地域性や条例を確認しながら、他の形態(旅館業、住宅宿泊事業)と比較して、どれが1番合理的か考えてみることが大事です。まずはそれぞれの制度について理解を深めましょう。