旅館業(簡易宿所)の許可について【概要を解説】
旅館業(簡易宿所)の営業許可を取得して宿泊施設を運営する場合は、旅館業法に則った手続きを行う必要があり、民泊事業を行うには簡易宿所営業で許可を取得するのが一般的です。では、旅館業の許可を取得するにはどのような要件があるのでしょうか、お伝えしていきます。
用途地域による立地制限
用途地域とは、都市計画法によって定められた土地の用途を限定するもので、建築基準法では用途地域ごとに建築できる建物を制限しています。旅館業の施設は、建築基準法上の「ホテル、旅館」の区分に該当するため、第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域の6地域でのみ建てることが可能となっています。つまり、旅館業の許可を取得する予定の施設がこの6地域上にあることが求められ、この地域以外では許可の取得ができなくなっています。
✖ | 第1種低層住居専用地域 | 低層住宅のための地域。小規模な店や事務所をかねた住宅、小中学校などが建てられる |
✖ | 第2種低層住居専用地域 | 主に低層住宅のための地域。小中学校などのほか、150㎡までの一定の店などが建てられる |
✖ | 第1種中高層住居専用地域 | 中高層住宅のための地域。病院、大学、500㎡までの一定の店などが建てられる |
✖ | 第2種中高層住居専用地域 | 中高層住宅のための地域。病院、大学、500㎡までの一定の店などが建てられる |
△ | 第1種住居地域 | 住居の環境を守るための地域。3000㎡までの店舗、事務所、ホテルなどは建てられる |
〇 | 第2種住居地域 | 主に住居の環境を守るための地域。店舗、事務所、ホテル、カラオケボックスなどは建てられる |
〇 | 準住居地域 | 道路の沿道において、自動車関連施設などの立地と、これと調和した住居の環境を保護するための地域 |
✖ | 田園住居地域 | 農業の利用を推進しつつ、低層住宅を調和させるための地域 |
〇 | 近隣商業地域 | まわりの住民が日用品の買い物などをするための地域。住宅や店舗の他に小規模な工場も建てられる |
〇 | 商業地域 | 銀行、映画館、飲食店、百貨店などが集まる地域。住宅や小規模の工場も建てられる |
〇 | 準工業地域 | 主に軽工業の工場やサービス施設等が立地する地域。危険性、環境悪化が大きい工場のほかは、ほとんど建てられる |
✖ | 工業地域 | どんな工場でも建てられる地域。住宅や店は建てられるが、学校、病院、ホテル等は建てられない |
✖ | 工業専用地域 | 工場のための地域。どんな工場も建てられるが、住宅、店、学校、病院、ホテル等は建てられない |
〇…立地可 ✖…立地不可 △…3000㎡以下に限る
※用途地域は自治体の担当窓口に相談するか、もしくはインターネットでも検索できますので事前に確認しておきましょう。
施設の構造設備基準
旅館業法では旅館業を「旅館・ホテル営業」、「簡易宿所営業」、「下宿営業」の3つの種別に分類し、それぞれに構造設備基準が設けられており、簡易宿所営業の基準は下記のようになっております。(旅館業法施行令第1条第2項)
①客室の延床面積は33㎡以上(宿泊者の数を10人未満とする場合には、3.3㎡に当該宿泊者の数を乗じて得た面積以上)
②階層式寝台を設置する場合、上段と下段の間隔はおおむね1m以上
③適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること
④宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること(近接した公衆浴場がある場合を除く)
⑤宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること
⑥適当な数の便所を有すること
⑦その他都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市又は特別区)が条例で定める構造設備の基準に適合すること
旅館・ホテル営業には「玄関帳場(フロント)または玄関帳場代替設備」設置が義務付けられてますが、簡易宿所営業には規制はありません。ただし、国の法令上の規制はなくても条例で基準化しているケースがあります。
上記は基本的な要件ですが、これ以外の構造設備については都道府県等が条例で定めることができるため、各自治体の最新の条例を調べる必要があります。
許可が得られない場合
旅館業の許可は都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長)に申請していきますが、以下の場合は許可が与えられないことがあります。
◇施設が構造設備基準を満たさないとき
◇申請者が欠格事由に該当する場合
欠格事由
- 心身の故障により旅館業を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 禁固以上の刑に処せられ、又は旅館業法もしくは旅館業法に基づく処分に違反して刑に処せられ、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなった日から起算して3年を経過していない者
- 旅館業の許可を取り消され、取消しの日から起算して三年を経過していない者
- 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過していない者
- 未成年者の法定代理人が1~5に該当する場合
- 申請する者が法人で、その業務を行う役員に1~5に該当する者がいる場合
- 暴力団員等がその事業活動を支配している場合
◇施設の設置場所が公衆衛生上不適当であるとき
◇施設の設置場所が以下の施設の敷地の周囲おおむね 100mの区域内にあり、その設置によって清純な施設環境が著しく害されるおそれがあるとき
- 学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、高等専門学校等)
- 幼保連携型認定こども園
- 児童福祉施設(助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター等)
- 社会教育に関する施設(公民館、図書館、博物館など)で都道府県等の条例で定めるもの
※許可申請時には上記施設の管理者に意見を求める必要があります。
◇消防法、建築基準法等の他法令を遵守していないとき
注意事項
旅館業法上の許可を得ずに旅館業を行うことは、旅館業法違反にあたります。旅館業法第10条では、「許可を受けないで旅館業を経営した者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」こととされていますので、制度をきちんと理解した上で適切な運営をしましょう。