旅館業法について【概要を解説】
宿泊事業を行う上では、①旅館業の許可、②住宅宿泊事業の届出、③特区民泊の認定のいずれかの手続きが必要となっており、旅館業の許可を取得して宿泊施設を運営していくには「旅館業法」を遵守しなければなりません。
今回は旅館業法についてお伝えしていきます。
旅館業の定義とは
そもそも旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されています。「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」で、「人を宿泊させる」には生活の本拠を置くような場合(例えば賃貸で部屋を貸すようなこと)は貸室業・貸家業にあたり旅館業には含まれません。
具体的に旅館業法が適用されるかどうかは、①宿泊料を徴収するか、②社会性があるか、③反復継続性があるか、④生活の本拠となりうるか、という4つの項目を踏まえて判断されます。
①宿泊料を徴収 | ②社会性の有無 | ③反復継続性の有無 | ④生活の本拠か否か | |
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旅館業の営業許可が必要 | 宿泊料を徴収する | あり | あり | 生活の本拠となっていない |
旅館業の営業許可が不要 | 宿泊料以外を徴収する | なし | なし | 生活の本拠となっている |
①宿泊料を徴収
「宿泊料」とは名目だけでなく、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされる、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費なども含まれます。これらの費用を徴収して人を宿泊させる営業を行う場合には、「体験料」などのように「宿泊料」として徴収していなくても旅館業法上の許可が必要です。
②社会性の有無
旅館業に該当する「営業」とは、「社会性をもって反復継続されているもの」となります。ここでいう「社会性をもって」とは、社会通念上、個人生活上の行為として行われる範囲を超える行為として行われるものであり、一般的には、知人・友人を宿泊させる場合は、「社会性をもって」には当たらず、旅館業法上の許可は不要と考えられます。
【社会性があると判断される例】
・不特定の者を宿泊させる場合
・広告等により広く一般に募集を行っている場合 など
③反復継続性の有無
宿泊募集を継続的に行っている場合は反復継続性があると判断されます。曜日限定、季節営業など、営業日を限定した場合であっても繰り返し行っている場合も同様です。
【反復継続性がないと判断される例】
年1回(2~3日程度)のイベント開催時であって、宿泊施設の不足が見込まれることにより、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高いものなど
④生活の本拠か否か
ウィークリーマンションのような1日(1泊)から1週間程度の単位でマンション等の空室に宿泊させるサービスは、賃貸契約により部屋を貸す場合であっても、実態として貸室業ではなく旅館業と判断され得る営業を行う場合は旅館業法に基づく許可が必要です。ただし、一般的にマンションやアパートなどの利用者がそこに生活の本拠として使用する場合は旅館業法の適用を受けません。
【生活の本拠と考えられる例】
・使用期間が一ヶ月以上(マンション、アパート、マンスリーマンション等)で、使用者自らの責任で部屋の清掃等を行う場合など
旅館業の種別
旅館業を営もうとする場合には、都道府県知事(保健所設置自治体の場合はその自治体の長)に対して許可申請を行い、許可を取得する必要があります。そして、旅館業法では「旅館業」を3つに分類してます。
①旅館・ホテル営業
施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの
②簡易宿所営業
宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの
例)カプセルホテルやゲストハウスなど
③下宿営業
施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業
宿泊者名簿について
旅館業の営業者は、宿泊者の氏名、住所、職業その他厚生労働省令で定める事項について記載された宿泊者名簿を作成し、3年間保存しておかなければいけません。この宿泊者名簿は感染症が発生し又は感染症患者が旅館等に宿泊した場合において、その感染経路を調査すること等を目的としています。
また、近年ではテロ発生に対する脅威が高まってきており、不特定多数の人が利用するホテルや旅館においては、その利用者の安全確保のための体制整備がますます重要となっています。そのような理由を背景として、日本国内に住所を有しない外国人の宿泊者に対しては国籍や旅券番号の記載を求めるようになっています。
宿泊させる義務
第五条 営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき。
二 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
旅館業法第5条
旅館業の営業者は、空室がない場合は仕方がないかもしれませんが、伝染性の疾病にかかっている者や風紀を乱すおそれのある者等を除いて宿泊を拒むことはできません。
旅館業法第5条第3号に基づく条例上の宿泊拒否事由は各都道府県で定められており、例えば以下のような事項があります。
泥酔、言動が著しく異常等で他の宿泊者に迷惑を及ぼす(おそれがある場合を含む)
身体、衣服等が著しく不潔で、衛生保持に支障又は他の宿泊客に迷惑を及ぼす(おそれがある場合を含む)
旅館業法第6条違反
- 宿泊者名簿の記載事項について請求があっても告げない
- 氏名等を告げない
- 宿泊者名簿への記入を拒んだ など
(明らかに)支払能力がない
(宿泊を拒む)正当な事由がある
その他
- 挙動不審と認められる
- 異常な挙動又は言動がある
- 著しく迷惑を及ぼす言動をし、営業者の制止をきかない
- 会員制度の寮等であって会員以外の宿泊申込がある
- 宗教関係の宿泊施設であって信徒以外の宿泊申込がある
- 通常の時間外に宿泊を申し込まれた
- 営業者が休業中
- 暴力団員である(と認められる)
- 宿泊に関し暴力的に要求行為が行われた
- 合理的な範囲を超える負担を求められた
- 合理性が認められる範囲内において、宿泊者の制限を行う
など
補足事項
旅館業法と異なり住宅宿泊事業法では宿泊拒否の制限を課していません。ただし、宿泊拒否の理由が差別的なものである場合や偏見に基づくものである場合は社会通念上、不適切となることもあるため留意する必要があります。